役員退職慰労金を支給する際の注意点

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医療法人のM&A・事業承継の実行時の役員退職慰労金の支給

医療法人のM&A・事業承継の実行時に、経営権の承継に対する対価の支払方法として、売主(承継元)の理事・監事への役員退職慰労金の支給が活用されています。
特に定款に持分の定めのない医療法人(いわゆる「持分なし医療法人」)のM&A・事業承継においては、売主・承継元は退職慰労金以外の形式で対価を受領することが税務上難しいこともあり、役員退職慰労金の金額をいくらにするか、またどのように支払うかといった点が、スキームを検討する上で重要なポイントになります。
また、持分の定めのある医療法人(いわゆる「持分あり医療法人」)においては持分譲渡につき対価の支払を受けることが可能ですが、持分譲渡により生じた利益に対する課税と、役員退職慰労金に対する課税では税率が異なることから、売主(承継元)の税負担を軽くし、手取額を最大化するために、持分あり医療法人のM&Aにおいても役員退職慰労金の支給が行われています。
このように、役員退職慰労金の支給は医療法人のM&A・事業承継において幅広く活用されていますが、注意が必要なポイントもいくつか存在します。

役員退職慰労金の金額の算定方法と支給するタイミング

医療法人のM&A・事業承継において役員退職慰労金を活用する場合、まずは支給する役員退職慰労金の金額を検討することになります。
医療法や税務の観点からは、役員退職慰労金の金額は当事者が自由に設定できるものではなく、不相当に高額な額の役員退職慰労金を支給すると法律上、税務上のリスクが生じます。
実務上は、①退任する役員の最終報酬の月額を基準とし、これに②勤続年数、及び③功績倍率を乗じる方法で、役員退職慰労金を計算する方法が用いられることが多く見られます。

実務においてよく見られる役員退職慰労金の金額の計算方法

役員退職慰労金の金額=①最終報酬の月額×②勤続年数×③功績倍率

上記のうち①最終報酬の月額と②勤続年数については、役員を退任する時点で把握可能ですが、③功績倍率については、税理士のアドバイスを踏まえて決定することをお勧めいたします。
また、役員退職慰労金を支給するタイミングについては、M&A・事業承継のスキームと齟齬が生じないようにする必要があります。
役員退職慰労金は、役員の退任に伴い支給されるものですので、M&A・事業承継の実行後も一定期間は理事・監事として業務を行う場合には、支配権の移転の際に退職慰労金を支給することは適切ではありません。このような場合は、予め社員総会で役員退職慰労金の支給に関する決議を行ったうえで、実際に理事・監事を退任する際に役員退職慰労金を支給する、という取扱いが望ましいと考えられます。
但し、医療法人の経営権を譲渡したにもかかわらず、理事・監事を退任するまでの一定期間、対価が受領できないということもあり得ますので、冒頭でも述べたように、役員退職慰労金を支給するのであれば、スキームを策定する段階でその詳細を確認・検討することが望ましいです。

役員退職慰労金の支払原資と買主による借入れ

役員退職慰労金の支払原資と買主による借入れ

医療法人をはじめとする特殊法人のM&A・事業承継においては、経営権を承継する対価の支払方法として役員退職慰労金の支給が活用されていますが、役員退職慰労金は、買主ではなく医療法人から支給されるものです。
そのため、役員退職慰労金が高額となるケースでは、その金額に相当する現預金が医療法人に存在しないという事態も十分にあり得ます。
このような場合、売主が対価を得られないのであれば、当該M&A・事業承継は検討中止(あるいは売主が一部の対価を諦める)という結論となるようにも思われますが、近時、買主が金融機関から借入れを行い、当該借入れにより得た資金を買主が医療法人に貸し付け、役員退職慰労金の支払原資とするというスキームが見られます。
このようなスキームは、買主が金融機関との間で締結した契約へ違反するリスク、最終契約締結後に買主による資金調達が不可となるリスク、貸金業の登録を受けない個人による貸付の可否といった問題があると考えられます。
そのため、売主(承継元)・買主(承継先)のいずれにおいても、役員退職慰労金の支払原資を買主が金融機関からの借入れにより調達するスキームについては、専門家のアドバイスを踏まえて検討されることをお勧めいたします。

役員退職慰労金を支給する上での注意点

役員退職慰労金を支給する上での注意点

これまで述べてきたように、医療法人のM&A・事業承継における役員退職慰労金の支給については、様々な論点が存在します。
医療法人は、剰余金の配当が禁止され(医療法54条)、かつ営利目的での病院等の開設が禁止されており(医療法7条7項)、これらの規定から医療法人の非営利性という考え方が導かれていますが、役員退職慰労金の支給にあたっても「非営利性」に抵触することがないよう、スキームの検討は慎重に行う必要があります。
当事務所では、医療法人・クリニックのM&A・事業承継を多数サポートした経験を有する八木啓介弁護士を中心に、税理士とも連携し、役員退職慰労金の支給に関してもアドバイスを提供しておりますので、お電話または問い合わせフォームより、お気軽にご連絡をいただけますと幸いです。

弁護士 八木 啓介 Keisuke Yagi

執筆者

医療法人・クリニックの M&A・事業承継廃業と戦略・予防法務
弁護士:八木啓介

弁護士 Keisuke Yagi

プロフィール

  • 2010年03月
    一橋大学法学部(法学士)
  • 2012年03月
    一橋大学法科大学院(法務博士(専門職))
  • 2013年12月
    最高裁判所司法研修所修了(66期)
    ビンガム・坂井・三村・相澤法律事務所(外国法共同事業)入所
  • 2015年04月
    統合によりアンダーソン・毛利・友常法律事務所 入所
  • 2016年08月~2017年09月
    野村證券株式会社 企業情報部にフィナンシャル・アドバイザーとして出向
  • 2020年04月
    八木&パートナーズ法律事務所 開設
  • 2021年03月
    大江・田中・大宅法律事務所 開設 同事務所パートナー

著書・論文等

  • 2015年05月
    クロスボーダー事業再生 – ケース・スタディと海外最新実務(株式会社商事法務)
  • 2016年05月
    M&A実務の基礎(株式会社商事法務)
  • 2018年06月
    M&A実務の基礎〔第2版〕(株式会社商事法務)
  • 2018年06月
    英文契約書レビューに役立つ アメリカ契約実務の基礎(第一法規出版株式会社)
  • 2020年12月
    ゼロからわかる事業承継・相続(株式会社プレジデント社)

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