執筆者
医療法人・クリニックの M&A・事業承継廃業と戦略・予防法務
弁護士:八木啓介
弁護士八木 啓介 Keisuke Yagi
近時、公表されているM&A・事業承継の件数は毎年過去最多を更新しておりますが、これらのM&A・事業承継の多くは、株式会社を対象とするものです。
株式会社のM&A・事業承継は、その会社が日本国民の生活に不可欠なインフラを運営しているといった特殊なケースでない限り、会社法を中心とした一般的な法令に基づく検討を行うことで足りることがほとんどです。2026年にはアジア系投資ファンドのMBKパートナーズによる株式会社牧野フライス製作所の買収に対し、経済産業省が外為法に基づく中止勧告を行ったことが話題となりましたが、このようなケースは異例のものです。
他方で、医療法人・クリニックのM&A・事業承継に対しては医療法に基づく規制が存在するため、医療法の観点からの検討が不可欠となります。
医療法に基づく規制の代表的なものは、①医療法人による剰余金の配当の禁止(医療法54条)と、②営利目的での病院等の開設を禁止(医療法7条7項)の2つですが、一般的にはこれらの規定が「医療法人の非営利性」の根拠であると考えられています。
もっとも、「医療法人の非営利性」は抽象的な概念ですので、非営利性という考え方からストレートに「ここまでは大丈夫だが、これ以上は法律違反となる」という切り分けを行うことは困難です。
しかしながら、医療法人・クリニックのM&A・事業承継のどのような場面で医療法の観点からの検討が必要となるかについて、類型化しておくことは有用と思われます。
医療法人・クリニックのM&A・事業承継のプロセスにおいては、以下の①乃至③を中心に、医療法の観点からの検討が必要となります。
上記①のスキームにつき例を挙げますと、医療法人・個人事業主のいずれにおいても、M&A・事業承継のスキームとして事業譲渡を選択することが可能ですが、事業を譲り受ける医療法人・個人事業主において、予め当局から診療所の開設許可を得ておく必要があります。かかる診療所の開設許可について当局が判断する際に、非営利性の観点から締結済みの事業譲渡契約の内容を精査することは、あまり知られていません。
上記②のM&A・事業承継の対価に関する検討事項の一例としては、いわゆる持分なし医療法人のM&A・事業承継において、売主が受領する役員退職慰労金の金額が挙げられます。役員退職慰労金として支給できる金額については、主に税務の観点からの制限が存在しますが、医療法人の場合は、剰余金の配当の禁止との関係にも留意して金額を検討する必要があります。
上記③のMS法人の取り扱いについては、M&A・事業承継以外の場面におけるMS法人との取引の際の注意点についてはご存じの方が多いと思われますが、M&A・事業承継の場面でMS法人をどのように処理するかは、具体的な事案に応じた検討が必要となります。
上記は一例ですが、医療法人・クリニックのM&A・事業承継では、様々な場面で医療法の観点からの検討が必要となります。
M&A・事業承継において医療法に違反した場合、最も重い処分としては開設許可が取り消される(医療法第29条第1項)リスクがありますので、医療法に抵触しないようにプロセスを進める必要があります。
上記のとおり、医療法人・クリニックのM&A・事業承継では医療法に基づく規制に留意しつつプロセスを進める必要があるところ、医療法の解釈・適用については弁護士によるサポートが有効となります。
当事務所では、医療法人・クリニックのM&A・事業承継を多数サポートした経験を有する八木啓介弁護士を中心に、経営者(売主)、承継先(買主)のいずれにつきましても、スキームの構築、デュー・ディリジェンス、最終契約の作成・交渉、M&A・事業承継の実行に至るまで、M&A・事業承継のプロセス全体をサポートしております。
M&A・事業承継の進め方でお悩みの際は、ぜひ当事務所までご相談ください。
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