執筆者
医療法人・クリニックの M&A・事業承継廃業と戦略・予防法務
弁護士:八木啓介
弁護士八木 啓介 Keisuke Yagi
2025年に総務省・四病院団体協議会(日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会及び日本精神科病院協会)から公表された資料によると、日本のおよそ7割から8割の病院では収支が赤字とされています。また、厚生労働省から公表されたデータによると、日本では1年に数千件の医療法人・個人医院が、廃業・閉院に至っています。
このように毎年相当数の医療法人・個人医院が廃業・閉院を余儀なくされている理由としては、業績の悪化に加え、後継者不在の問題があると思われます。医療従事者が都心部に集中していることもあり、特に地方の小規模なクリニックの経営主体である医療法人においては後継者問題が年々深刻となっており、M&A・事業承継の可能性を探るべく当事務所にご相談に来られる方も増えております。
当事務所によるサポートの結果、無事にM&A・事業承継が実現するケースもあれば、残念ながら買主・後継者が見つからないこともあります。
この場合、医療法人の経営者としては、そのまま医療法人の経営を続けるか、時機を見て診療を中止し、廃業・閉院、すなわち医療法人の清算手続に移行するかの判断を迫られます。
いずれを選択するかは、患者の転院の可否、従業員の雇用維持の必要性、医療法人の財務状況などを踏まえて検討することになりますが、仮に清算手続への移行を選択した場合、株式会社などと異なり配当が禁止されている医療法人では、保有する現預金(残余財産)の処理が重要なポイントとなります。
前提として、医療法人の清算にあたっては、その医療法人の貸借対照表の資産・負債の部に記載されているものが現預金のみとなっている必要があります。
そのためには、医療法人が締結している賃貸借契約・雇用契約などの契約を全て終了し、また医療機器や薬の在庫なども処分する必要がありますので、一定の費用が掛かります。
また、金融機関や役員からの借入金などの負債がある場合には、全て返済する必要があります。なお、負債が残ってしまう場合には破産や特別清算といった手続を選択することとなり、残余財産の分配は生じません。
上記のように、貸借対照表が現預金のみとなれば、清算手続の最後のステップとして、当該現預金を残余財産として社員に分配することが可能になりますが、以下で述べるように、医療法人の残余財産の分配については第5次医療法改正により一定の制限が課されています。
医療法は、医療法人の残余財産の帰属に関し、以下の各規定を設けています。
第44条第2項柱書・同項第10号
医療法人を設立しようとする者は、定款又は寄附行為をもつて、少なくとも次に掲げる事項を定めなければならない。
第44条第5項
第二項第十号に掲げる事項中に、残余財産の帰属すべき者に関する規定を設ける場合には、その者は、国若しくは地方公共団体又は医療法人その他の医療を提供する者であつて厚生労働省令で定めるもののうちから選定されるようにしなければならない。
第56条
解散した医療法人の残余財産は、合併及び破産手続開始の決定による解散の場合を除くほか、定款又は寄附行為の定めるところにより、その帰属すべき者に帰属する。
2 前項の規定により処分されない財産は、国庫に帰属する。
上記の各規定から導かれる帰結は、解散する医療法人の残余財産は、出資者ではなく国・地方公共団体等に帰属するというものです。
しかしながら、第5次医療法改正以前の持分あり医療法人のメリットの1つは、残余財産を払込済出資額に応じて分配することができる点にありますので、上記の規定に従うと、財産権侵害の問題が生じかねません。
そのため、医療法は附則の第10条第2項において、残余財産に関する経過措置として、「当分の間」は解散時の残余財産分配請求権が認められると規定しております。
その結果、2026年時点でも持分あり医療法人については、残余財産を払込済みの出資額に応じて分配することが可能となっております。
なお、持分あり医療法人とは異なり、持分なし医療法人については残余財産の帰属は国や地方公共団体等となっておりますので、残余財産を経営者へ分配することはできません。
当事務所では医療法人の清算手続を多数支援した経験を有する弁護士が、金融機関との交渉、従業員との折衝、土地・建物の賃貸人とのコミュニケーションを含め、経営者の皆様をサポートしております。
また、医療法人の清算手続においては都道府県知事の認可の取得をはじめとする行政手続が必要になるところ、当事務所ではこれらの手続に詳しい行政書士とも連携しております。加えて、医療法人の清算手続に関する税務については税理士と連携し、ワンチームで医療法人の清算手続を支援いたします。
医療法人の廃業・閉院や清算手続についてお悩みの方は、お問い合わせフォーム又はお電話にて当事務所までお問い合わせください。
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