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2026.06.30

【医療法人M&A】事業譲渡契約の内容

 

医療法人のM&Aにおいては、株式会社のM&Aと同様に事業譲渡を用いることが可能です。

事業譲渡とは、単なる資産の売買ではなく、資産に加え、取引先との契約や従業員との雇用契約などを含む、「事業」を対象とする取引行為です。事業譲渡に類似した制度として会社分割があり、医療法人においても会社分割は利用できるものの、いわゆる「持分なし医療法人」のみしか利用できないことや、手続の煩雑さなどから、医療法人M&Aでは会社分割よりも事業譲渡の方が使用しやすいと思われます。

そして事業譲渡をスキームとして選択した場合には、最終契約として事業譲渡契約を作成することになります。この事業譲渡契約については、インターネットで検索すれば様々なサンプルが出てくるかと思いますが、個々の案件に応じてカスタマイズを行う必要があります。

そこで本コラムでは、事業譲渡契約を作成・レビューする際に、どのようなポイントに注意する必要があるのか、当職の考え方を紹介させていただきます。

 

1. 事業譲渡契約の構成について

医療法人M&Aの事業譲渡契約の構成としては、以下の内容が一般的なものとなります。

 

  • ① 事業譲渡に関する事項(対象となる事業の内容、事業譲渡の実行日)
  • ② 譲渡対価に関する事項
  • ③ 医療法人の社員・役員(理事・監事)の変更に関する事項
  • ④ 理事等の退職慰労金の支払に関する事項
  • ⑤ 売主・買主の義務の履行に関する前提条件
  • ⑥ 売主・買主の表明及び保証
  • ⑦ 売主・買主の義務(持分譲渡の実行前・実行後の義務)
  • ⑧ 当事者の補償義務
  • ⑨ 一般条項(秘密保持、裁判管轄など)

 

上記①(事業譲渡に関する事項)に関し、事業譲渡契約においては売主から買主に対して譲渡する権利義務を特定する必要があるため、「対象医療法人が営んでいる事業」といった抽象的な記載ではなく、別紙で譲渡対象となる権利義務を列挙することが望ましいです。

 

また、上記②(譲渡対価に関する事項)については、売掛金や買掛金などを対象とした譲渡対価の調整方法(クロージング・アカウント)を規定することもありますが、近年では譲渡対価を分割払いとするケースが増えているように思われます。

医療法人に限らず、M&Aにおいて対価を分割払いとすることが禁じられているわけではありませんが、売主が債権回収のリスクを負うことになりますので、(やむを得ない理由で)分割払いを選択する場合、売主側では連帯保証・物的担保の確保等の措置を講じておくことが望ましいです。

 

2. 医療法人M&Aの特殊性と事業譲渡契約の注意点

事業譲渡に限らず医療法人M&Aにおいては、医療法の規制や、医療法人の「非営利性」に違反しないようにプロセスを進める必要があります。

医療法人の非営利性についてはご存じの方も多いと思われますが、医療法人においては剰余金の分配を行うことができず(医療法第54条)、また営利を目的とした病院等の開設に対しては許可を与えないことが可能とされており(医療法第7条第7項)、これらの規定が非営利性の根拠と考えられています。

このような医療法人の非営利性に基づき特に注意しなければならないのが、事業譲渡の対価です。

売主・買主のいずれもが医療法人の場合、事業譲渡の実行に先立ち、都道府県知事より認可を取得する必要があるところ、この認可申請の手続においては締結済みの事業譲渡契約を提出する必要があります。そして、提出した事業譲渡契約につき当局が確認する際、譲渡対価が「非営利性」に反した内容となっている場合には認可を得られない可能性があり、そうなると「事業譲渡契約は締結したのに実行できない」という事態に陥りかねません。

事業譲渡契約の内容に問題があり当局の認可が得られなかったことが原因でトラブルとなっているというケースは、当職もこれまでに何度かご相談をいただいたことがありますので、この点は特に注意が必要です。

 

また、理事等に支払う退職慰労金の金額についても、「非営利性」に反したものとならないよう、注意が必要です。以前、当事務所にご相談に来られた方より、「M&A仲介会社から、退職慰労金の金額は税務の観点から検討すればよいというアドバイスを受けた」というお話を伺ったことがありますが、このようなアドバイスは適切ではなく、医療法の観点からの検討が常に必要となります。

 

3. MS法人の扱いについて

最後に、スキームとして事業譲渡を選択した場合にMS法人をどう扱うかについて、考え方を紹介させていただきます。

まず、事業譲渡契約においてMS法人の扱いについて規定するかという点ですが、この点につき明確なルールは無いものの、契約内容が複雑になるのみでなく、事業譲渡の対価の設定が困難となることなどを踏まえると、事業譲渡契約ではなく、別の契約でMS法人の扱いを規定することが望ましいと考えられます。

そして事業譲渡に伴い、MS法人が行っている事業を買主が引き継ぐ必要があるのであれば、MS法人の株式に関する株式譲渡契約(MS法人が合同会社などの持分会社の場合には、持分譲渡契約)を別途締結し、MS法人に関する事項はそちらの契約で処理することが適切と思われます。

他方で、MS法人が行っている事業を買主が引き継がない場合には、医療法人のオーナーの資産管理会社として活用することなどが選択肢となりますが、MS法人を清算することもあり得ます。

 

4. まとめ

本コラムでは、事業譲渡契約を作成・レビューする際はどのようなポイントに注意する必要があるのか、当職の考え方を紹介させていただきました。

事業譲渡契約はM&Aの中でも難易度の高い契約類型ではあるものの、専門家に作成・レビューを依頼せず、当事者のみで完結されることが増えているようです。

トラブルが起きなければそれでも問題ありませんが、万が一トラブルが生じた際、契約内容が自らに不利な内容となっていると、当初の想定と異なる事態に陥りかねないため、少なくとも事業譲渡契約の締結前に、弁護士にレビューを依頼することをお勧めいたします。

当事務所では、医療法人M&Aを多数サポートした経験を有する複数の弁護士が、事業譲渡契約の作成・レビューを含む、医療法人M&Aのプロセス全体をサポートしております。

当事務所では医療法人M&Aに関し、売主・買主のいずれをもサポートしておりますので、医療法人M&Aに関してお悩みの方は、お電話またはトップページ末尾のお問い合わせフォームからご連絡をお願いいたします。

 

※本コラムの内容は、一般的な情報提供であり、具体的なアドバイスではありません。お問い合わせ等ございましたら、当事務所までご遠慮なくご連絡下さいますよう、お願いいたします。