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2025.07.25

M&A弁護士コラム「医療法人M&Aに伴う役員退職慰労金の支給に関する注意点」

医療法人M&Aにおいては株式会社などのM&Aと異なり、医療法による規制が存在します。医療法は、医療法人による剰余金の配当を禁止し(医療法54条)、かつ営利目的での病院等の開設を禁止しており(医療法77項)、これらの規定から医療法人には非営利性が求められるという考え方が一般的です。

他方で、医療法人の非営利性が医療法人M&Aに対してどのような影響をもたらすかについては、明文の規定が存在しないため解釈に委ねられておりますが、この数年間で医療法人M&Aの件数が急激に増えたこともあり、一定のプラクティスが形成されつつあります。

M&Aに伴う役員退職慰労金の支給そのものは医療法人以外のM&Aでも行われていますが、上述した医療法の規制、あるいは他の理由から、医療法人M&Aに固有の注意点も存在します。

そこで本コラムでは、医療法人M&Aに伴う役員退職慰労金の支給に関する注意点について、解説させていただきます。

 

1. 医療法人M&Aにおける役員退職慰労金の重要性

医療法人M&Aにおいては、株式会社を対象とするM&Aと比較して、役員退職慰労金の取り扱いの重要度が高くなります。

医療法人の中には持分の定めのある社団医療法人と、持分の定めのない社団医療法人が存在するところ(財団医療法人など、他の種類の医療法人も存在します。)、特に後者の持分の定めのない社団型医療法人においては株式会社における株式のような権利が存在しないため、M&Aの対価をどのように支払うかが論点となります。

もっとも、理事・監事に対する役員退職慰労金については、所定の手続を履践すれば支払うことができるため、医療法人M&Aにおいては役員退職慰労金を活用することが一般的となっております。

また、持分の定めのある社団医療法人においては「持分」という権利が存在するため、持分に対して対価を支払うことが可能ですが、持分の譲渡により生じた利益に対する課税と役員退職慰労金に対する課税では税率が異なることから、売主の税負担を軽くし、手取額を最大化するために、持分の定めのある社団医療法人のM&Aでも役員退職慰労金が活用されています。

 

2. 役員退職慰労金の計算方法

役員退職慰労金を活用する際、まず検討しなければならないのは支給する役員退職慰労金の金額です。役員退職慰労金はいくら支給してもよいというわけではなく、不相当に高額な額の役員退職慰労金を支給すると税務上のリスクが生じます。

実務上は、①退任する役員の最終報酬月額をベースに、これに②勤続年数と③功績倍率を乗じる方法で、役員退職慰労金を計算することが一般的です。

 

役員退職慰労金の金額=①最終報酬月額×②勤続年数×③功績倍率

 

上記の変数のうち問題となりやすいのは③功績倍率です。実務上は、理事長については23倍、理事については12倍が採用されることが多いものの、決まったルールはありません。そのため、税理士とも協議して、税務上問題のない数値とすることをお勧めしております。

 

3. 役員退職慰労金の支給時期

医療法人M&Aにおける役員退職慰労金の支給時期については、採用するMAのスキームとの間で齟齬が生じないようにする必要があります。

例えば、売主である理事長が、MAの実行後も一定期間はそのまま理事長として診療を続ける場合には、当該理事長が実際に理事を退任するタイミングで役員退職慰労金を支給することになります。同じスキームで、もしM&Aの実行と同時に役員退職慰労金を支給してしまうと、役員を退任していないにもかかわらず役員退職慰労金を支給したものとして、税務上、退職所得ではなく給与所得として扱われてしまうリスクがあります。

特に小規模なクリニックのM&Aでは、患者とのコミュニケーションや業務の引継ぎのために、M&Aの実行後も理事長が交代しないケースが多いため、役員退職慰労金の支給時期についても注意が必要です。

 

4. 役員退職慰労金の支払原資

最後に、役員退職慰労金の支払原資の問題について取り上げたいと思います。

当然ではありますが、役員退職慰労金を支払うのは買主ではなく、医療法人です。そのため、上記2.の計算方法から算出された役員退職慰労金の金額が高額なものであっても、それに相当する現預金が医療法人になければ受け取ることができず、絵に描いた餅となります。

しかしながら、この数年の間で、医療法人M&Aの当事者より以下のような相談を受けるケースが増えております。

 

・退職慰労金の支払原資がなかったが、アドバイザーより「最終契約の締結後に金融機関から借入をすればよい」と言われたので、それに従って最終契約の締結後に金融機関に相談したところ、「役員退職慰労金を支払うための融資はできない」と言われた
・役員退職慰労金が支払われないため、医療法人の社員・役員の変更手続は完了したが、M&Aの対価を受領していない
・それにもかかわらずアドバイザーから成功報酬の支払を求められている
・アドバイザーは、「融資をするかどうかは金融機関次第なので、こちらが関与することではない」と言っている

 

このように現預金がない医療法人について、役員退職慰労金の支給を所与の前提とするスキームは極めて不安定です。ところがM&A仲介会社などのアドバイザーはM&Aの対価をベースに成功報酬の金額を算定することが多いため、役員退職慰労金の金額をM&Aの対価に含めることで、成功報酬の金額を上げようとするケースがあります。

上記の相談のように、役員退職慰労金の支給のために金融機関から借入れを行うというスキームは現実的ではないので、役員退職慰労金を支給する上では支払原資が必要であることを念頭に置いていただければと思います。

 

5. まとめ

本コラムでは、医療法人M&Aに伴う役員退職慰労金の支給に関する注意点について解説させていただきました。

役員退職慰労金は医療法人M&Aにおける主要論点の1つですが、医療法人M&Aに取り組む上ではこれ以外にも検討が必要なポイントがあります。

当事務所では、多数の医療法人M&Aをサポートした経験を有する弁護士が、税理士と連携し、役員退職慰労金の支給に関してもアドバイスを差し上げております。

医療法人M&A、あるいは医療法人M&Aに関するトラブルでお悩みの場合には、お電話または下記のお問い合わせフォームからご連絡をお願いいたします。

 

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※本コラムの内容は、一般的な情報提供であり、具体的なアドバイスではありません。お問い合わせ等ございましたら、当事務所までご遠慮なくご連絡下さいますよう、お願いいたします。