2025.07.10
M&Aを活用した事業承継や事業の拡大は、大企業のみでなく中小企業においても一般的なものとなりつつありますが、その傍らで、医療法人においても事業承継の手段としてM&Aが活用されるようになっています。厚生労働省が公表した資料によると全国の医療法人数は約6万で、300万社以上ある中小企業と比較するとM&Aの件数の絶対値は小さくなりますが、当事務所に相談をいただく中小企業M&Aと医療法人M&Aの割合の推移をみる限り、医療法人M&Aはかなりの勢いで増加していると思われます。
昨年、中小企業M&Aに関するトラブル(いわゆる「悪質M&A」)が報道等で大きく取り上げられましたが、中小企業M&Aと同様に、医療法人M&Aに関するトラブルも増えています。そこで本コラムでは、医療法人M&Aに関するトラブルの中でも件数が比較的多い、表明及び保証(以下、単に「表明保証」といいます。)の違反について解説させていただきます。
医療法人M&Aに関する相談内容で最も多いのは、M&Aそのものに関する相談(デュー・ディリジェンスの対応や最終契約のレビューなど)ですが、M&Aトラブルに関する相談も少なくありません。
その背景には、医療法人M&Aに詳しい専門家が少なく、弁護士のサポートを受けずにM&Aが実行された結果、M&Aの実行後に当事者が想定していなかった事態が生じてしまうことがあると思われます。
買主側が十分なデュー・ディリジェンスを行わなかった結果、買収対象の医療法人の問題点を認識できず、また売主側で最終契約のレビューを弁護士に依頼しなかった結果、包括的な表明保証をしてしまうと、売主の表明保証違反が生じるリスクは高くなります。
このような事態は売主のみでなく、譲渡対価を支払った買主にとっても望ましいことではないため、リスク回避のためにM&Aの検討開始時点から専門家のサポートを受けるべきですが、当事務所に相談に来られるまで「M&Aを弁護士に相談するという発想がなかった」という方もおられます。
なお、M&Aにおいては売主・買主の双方が相手方に対して表明保証をするものの、買主の表明保証の内容は売主と比較すると基礎的な内容のみであることが一般的ですので、買主の表明保証違反が問題となることはほとんどありません。
医療法人M&Aの売主において、表明保証違反が生じやすい事項としては以下のようなものが挙げられます。
買主が適切にデュー・ディリジェンスを行えば、M&Aの実行前にリスク分析を行い、M&Aの譲渡対価に反映させる、あるいはM&Aの検討を中止するという判断を行うことが可能ですが、上述したとおり医療法人M&Aでは十分なデュー・ディリジェンスが行われないことも珍しくないため、M&Aの実行後に表明保証違反の問題となって現れます。
なお、MS法人との取引に基づくリスクなどは売主側で把握していることが多いと思われますが、売主が買主に対してリスクの内容を正確に伝えることは難しいため、このような部分も本来はアドバイザーが主導すべきポイントとなります。
一般的なM&Aの最終契約においては、M&Aの実行後は最終契約を解除できない旨が規定されています。そのため、例えばM&Aの実行後に買収対象の医療法人が患者から訴訟が提起されたり、税務署から追徴課税がなされた場合には、買主としては、売主に対する表明保証違反に基づく補償請求の可否を検討することになります。
買収対象の医療法人に何か問題が起きれば、すべて売主の表明保証違反を構成するというわけではないため、売主側は買主の主張を分析し、それが表明保証違反に該当するか否かを検討し、買主と争うか、和解をするかの判断を行うことになります。
表明保証違反に該当するか否かの判断は法的な評価を伴うものですので、買主・売主のいずれの立場においても、弁護士に相談されることをお勧めいたします。
本コラムでは、医療法人M&Aと表明保証違反について解説させていただきました。
M&Aは専門的な知識が要求される高度な取引であり、その中でも医療法人M&Aは医療法などの理解が求められるため、より難易度が高くなります。
そのためM&Aの検討開始のタイミングからM&Aの専門家に相談すべきではありますが、費用の問題がある場合には、少なくとも最終契約のレビューのみでも弁護士に依頼することをお勧めいたします。
当事務所では、多数の医療法人M&Aをサポートした経験を有する弁護士が、買主・売主のいずれに対してもアドバイスを差し上げております。
医療法人M&A、あるいは医療法人M&Aに関するトラブルでお悩みの場合には、お電話またはトップページ末尾のお問い合わせフォームからご連絡をお願いいたします。
※本コラムの内容は、一般的な情報提供であり、具体的なアドバイスではありません。お問い合わせ等ございましたら、当事務所までご遠慮なくご連絡下さいますよう、お願いいたします。