2025.01.20
M&Aにおいて、相手方との最終的な合意内容を規定した契約のことを「最終契約」といいますが、医療法人の理事長に限らず、経営者が初めてM&Aに取り組まれる際にはどのような点に注意すればよいのかが分からず、悩まれるのではないでしょうか。
M&Aを頻繁に行っている企業は別として、M&Aは非日常的な取引であり、最終契約の内容も一般的な取引に関する契約とは異なります。加えて、M&Aにおいては当事者が負担する潜在的なリスクも大きいため、最終契約は極めて重要なものとなります。
また、医療法人のM&Aは株式会社などの一般的なM&Aとは異なり、医療法に基づく規制を遵守して行う必要があるため、最終契約の検討においても医療法の観点からの検討が必須となります。当事務所は最終契約の作成・修正を含め、医療法人のM&Aを多数サポートしておりますが、近年、最終契約の締結後(あるいはM&Aの実行後)にトラブルが発生し、当事務所に相談に来られる経営者の数が増えています。M&Aにおいては、最終契約を締結してしまうと引き返すことが難しくなるため、不安な点があれば最終契約の締結より前に対応する必要があります。
そこで本コラムでは、最終契約を検討中の経営者の皆様に向けて、医療法人M&Aにおける最終契約のポイントについて解説させていただきます。
医療法人M&Aには様々なスキームがありますが、本コラムでは比較的採用されることの多いスキームである、持分の定めのある医療法人を対象とした、持分の譲渡に関する最終契約を取り上げさせていただきます。
医療法人M&Aの最終契約の内容を把握する上では、医療法人については株式会社と異なり、医療法に基づく規制が適用されることを理解しておく必要があります。
医療法においては、①営利目的での病院等の開設が禁止されており(医療法7条7項)、また②医療法人による剰余金の配当が禁止されております(医療法54条)。これら①・②の規定を根拠に、「医療法人の非営利性」について言及されることがありますが、医療法人M&Aの局面でも非営利性については注意する必要があります。
一例としては、M&Aの譲渡対価を受領する際に、税務上のメリットを得る目的で譲渡対価の一部を退職金の支給に振り替える際、理事長が受領する役員退職金の金額が過大とならないようにする必要があり、また医療法人の社員から脱退する際の払戻請求権の取扱いも問題となります。
医療法人M&Aの最終契約を作成する上では、上記のような医療法上の規制に留意して進める必要がある点を、まずはご理解いただきたいと思います。
医療法人M&Aのうち、持分の定めのある医療法人を対象とした、持分の譲渡に関する最終契約は「持分譲渡契約」などと呼ばれることが一般的です。持分譲渡契約に通常規定すべき項目は以下のとおりです。
上記①~⑨のうち、⑧、⑨は案件ごとに大きく内容が異なることはありませんが、①~⑦については、対象となる医療法人におけるリスク(例えばデュー・ディリジェンスにより発見されたリスクなど)や当事者の意向に応じた修正が必要となります。
言い換えますと、持分譲渡契約の大部分は案件ごとに異なりますので、相手方やM&A仲介などが作成した持分譲渡契約を修正することなくそのまま締結してしまうと、自らに不利な内容の契約となる可能性が高くなります。
なお、上記⑧に「契約の終了・解除」という項目がありますが、最終契約を解除できるのはM&Aの実行までとされており、M&Aの実行後は解除できない旨を規定することが通常です。これは、M&Aの実行後も最終契約を解除できるとなると、解除により大きな混乱が生じる可能性があることが理由となります。
冒頭にも記載したとおり、持分譲渡契約を含めた最終契約について、十分な検討を行うことなく締結し、M&Aを実行した後にトラブルとなるケースが増えています。
医療法人M&Aに関するトラブルとしては、患者からのクレーム・訴訟といった医療事故に関する問題に加え、診療所や門前薬局などの不動産の権利関係、スタッフの退職や未払賃金の支払といった労働問題などが典型例です。
これらの問題の多くは、デュー・ディリジェンスによって事前に確認できるものですが、事前にリスクを把握していても、当該リスクへの対応策を最終契約において適切に規定していなければ意味がありませんので、デュー・ディリジェンスの実施、最終契約の締結など、M&Aの一部分だけでも専門家に相談されることをお勧めします。
本コラムでは、医療法人M&Aにおける最終契約のポイント、及び最終契約を十分に検討しなかった場合に起こり得るM&A実行後のトラブルについて解説させていただきました。
医療法人M&Aは極めて難易度の高い取引ですので、売主・買主のいずれの立場であっても、M&Aの検討初期の段階から専門家に相談されることをお勧めいたします。
当事務所では、医療法人のM&Aを多くサポートしている弁護士が、同じくM&Aに精通した税理士等の専門家と連携し、医療法人M&Aのプロセス全体をサポートしております。
医療法人の事業承継・M&Aに関する初回相談は無料で承っておりますので、お電話またはトップページ末尾のお問い合わせフォームからぜひご連絡ください。
※本コラムの内容は、一般的な情報提供であり、具体的なアドバイスではありません。お問い合わせ等ございましたら、当事務所までご遠慮なくご連絡下さいますよう、お願いいたします。