2024.12.26
医療法人のM&Aの件数は、ここ数年で大きく増加しています。これは、理事長の高齢化などを理由とした医療法人における事業承継のニーズが高まっていることのみでなく、M&A仲介会社による取り組みも大きく影響しているかと思われます。
他方で、M&Aの件数の増加に伴い、トラブルとなるケースも残念ながら増えているのが実情です。
M&Aはそれ自体、専門的な知識を必要とする複雑かつ高度な取引です。加えて、医療法人のM&Aにおいては医療法に基づく規制・手続を遵守する必要があります。
医療法人のM&Aそれ自体は社会的な必要性があるものの、適切なプロセスを経ずに契約を締結し、トラブルとなってしまうのでは意味がありません。
そこで本コラムでは、医療法人のM&Aはどのように進めるべきか、専門家の視点からポイントを解説させていただきます。
なお、本コラムでは医療法人のM&Aに限定して解説させていただき、法人化していないクリニック・診療所のM&Aについては、別のコラムで解説させていただきます。
医療法人には、定款あるいは設立時期により、持分の定めのある医療法人と、持分の定めのない医療法人の2種類が存在します。
個人である理事(長)が当事者となってM&Aを行う場合、持分の定めのある医療法人については、①持分の譲渡に伴う対価と、②理事を辞任することに伴う退職慰労金の2つに分けて、M&Aの対価を受領することが一般的です。なお、①・②の金額をどのように分けるかは、税務の観点からの検討が必要となります。
他方で、持分の定めのない医療法人の場合には、持分の譲渡というものが観念できないため、退職慰労金の支払のみとなるケースが多いと思われます。もし退職慰労金に加え、それ以外の名目で対価を受け取る場合には、税務の観点からの検討に加え、剰余金の配当を禁止している医療法の規制にも注意する必要がありますので、ご留意ください。
医療法人が当事者となってM&Aを行う場合、株式会社と同様に、事業譲渡、合併、分割を利用することが可能です。
ただしこの場合、医療法人M&Aの特殊性である行政手続が発生することになります。
典型的な行政手続としては、診療所の開設許可、都道府県医療審議会における認可といったものがありますが、医療法人のM&Aではこれらの手続を適切に履行しなければ、M&Aを実行することができません。
M&Aの最終契約を締結し、M&A仲介会社などへの手数料の支払義務が発生した後になって、診療所の開設許可が得られないことが判明するようなケースもありますので、医療法人が当事者となってM&Aを行う場合には特に注意が必要となります。
また、病床の引継ぎに関しても同様に行政手続が必要となりますので、M&Aの検討を始めた直後から、これらの点に注意してスケジューリングを行うことをお勧めします。
M&Aを実行する上での売主と買主の最終的な合意を規定した契約のことを「最終契約」と呼びますが、医療法人M&Aにおける最終契約の種類には、大きく分けて①持分譲渡契約(個人によるM&A、持分の定めのある医療法人の場合)、②経営権の承継に関する契約、事業承継契約など(個人によるM&A、持分の定めのない医療法人の場合)、③事業譲渡契約(医療法人によるM&A、事業譲渡を利用する場合)、④経営統合契約など(医療法人によるM&A、合併・分割を利用する場合)といったものがあります。なお、合併の場合には合併契約、分割の場合には分割契約を締結しますが、これとは別で最終契約を準備することが一般的です。
当事務所が医療法人M&Aをサポートさせていただく際に、「最終契約のひな型」の有無を質問されることがありますが、最終契約は案件の個別事情に応じて作成しなければ当事者の意向を反映することができないため、当事務所には「最終契約のひな型」はないと回答しております。
M&Aに関するトラブルでご相談に来られる方は、アドバイザーが準備した契約書に修正を加えることなくそのまま押印されており、ご自身での内容の確認や弁護士へのレビューの依頼を行われていないケースが多いのですが、最終契約は極めて重要なものですので、ご自身でも内容を確認し、必要に応じて弁護士にレビューを依頼することが重要となります。
本コラムでは、医療法人のM&Aの進め方について、ポイントを解説させていただきました。
医療法人のM&Aは、株式会社のM&Aよりも難易度が高く、そのため専門家の数も限られているのが実情です。当事務所では、医療法人のM&Aを多くサポートしている弁護士が、同じくM&Aに精通した税理士等の専門家と連携し、医療法人M&Aのプロセス全体をサポートしております。
医療法人の事業承継・M&Aに関する初回相談は無料で承っておりますので、お電話またはトップページ末尾のお問い合わせフォームからぜひご連絡ください。
※本コラムの内容は、一般的な情報提供であり、具体的なアドバイスではありません。お問い合わせ等ございましたら、当事務所までご遠慮なくご連絡下さいますよう、お願いいたします。