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2022.04.15

医療法人の清算と残余財産

日本では毎年、相当数の医療法人が後継者の不在や業績の悪化などの理由で、解散・清算を余儀なくされています。

医療従事者が都心部に集中していることもあり、地方の小規模なクリニックの経営主体である医療法人においては後継者問題が年々深刻となっており、M&A・事業承継の可能性を探るべく当事務所にご相談に来られる方も増えております。当事務所によるサポートの結果、無事にM&A・事業承継が実現するケースもあれば、残念ながら買主・後継者が見つからないこともあります。

この場合、医療法人の経営者である理事としては、そのまま事業を継続するか、どこかのタイミングで事業を停止し、医療法人を清算するかの判断を迫られます。いずれを選択するかは、その病医院が提供している医療サービスの需要、従業員の生活、医療法人の財務状況など、様々な点を考慮する必要がありますが、仮に清算を選択した場合、株式会社などと異なり配当が禁止されている医療法人において、蓄積してきた資産(残余財産)をどう処理するのかは重要な考慮要素となります。

そこで本コラムでは、医療法人の清算と残余財産の取扱いについて、概要を解説いたします。

 

1. 残余財産とは

医療法人の清算にあたっては、その医療法人の貸借対照表の資産・負債の部に記載されているものが現預金のみとなっている必要があります。

そのためには、賃貸借契約・雇用契約などの契約関係を全て終了し、医療機器や薬の在庫などを処分する必要がありますので、一定の費用が掛かります。

また、金融機関や役員からの借入金などの負債がある場合には、全て返済する必要があります。なお、負債が残ってしまう場合には破産や特別清算といった手続を選択することとなり、残余財産の分配は生じません。

上記のように、貸借対照表が現預金のみとなれば、清算手続の最後のステップとして、当該現預金を残余財産として社員に分配することが可能になりますが、以下で述べるように、医療法人の残余財産の分配については第5次医療法改正により一定の制限が課されています。

 

2. 医療法による制限

医療法は、医療法人の残余財産の帰属に関して以下の各規定を設けています。

 

44条第2項柱書・同項第10

医療法人を設立しようとする者は、定款又は寄附行為をもつて、少なくとも次に掲げる事項を定めなければならない。

十 解散に関する規定

 

44条第5

第二項第十号に掲げる事項中に、残余財産の帰属すべき者に関する規定を設ける場合には、その者は、国若しくは地方公共団体又は医療法人その他の医療を提供する者であつて厚生労働省令で定めるもののうちから選定されるようにしなければならない。

 

56

解散した医療法人の残余財産は、合併及び破産手続開始の決定による解散の場合を除くほか、定款又は寄附行為の定めるところにより、その帰属すべき者に帰属する。

2 前項の規定により処分されない財産は、国庫に帰属する。

 

上記を端的に言い換えれば、解散する医療法人の残余財産については、出資者ではなく、国や地方公共団体等に帰属することとなっています。。

 

3. 持分あり医療法人における残余財産の取扱い

しかしながら、第5次医療法改正以前の持分あり医療法人のメリットの1つは「残余財産を払込済出資額に応じて分配できる」点にありますので、上記の規定に従うと、財産権侵害の問題が生じかねません。

そのため、医療法は附則第10条第2項において、残余財産に関する経過措置として以下のとおり「当分の間」は解散時の残余財産分配請求権が認められることになっております。

 

(残余財産に関する経過措置)

第十条 医療法第四十四条第五項の規定は、施行日以後に申請された同条第一項の認可について適用し、施行日前に申請された同項の認可については、なお従前の例による。

2 施行日前に設立された医療法人又は施行日前に医療法第四十四条第一項の規定による認可の申請をし、施行日以後に設立の認可を受けた医療法人であって、施行日において、その定款又は寄附行為に残余財産の帰属すべき者に関する規定を設けていないもの又は残余財産の帰属すべき者として同条第五項に規定する者以外の者を規定しているものについては、当分の間(当該医療法人が、施行日以後に、残余財産の帰属すべき者として、同項に規定する者を定めることを内容とする定款又は寄附行為の変更をした場合には、当該定款又は寄附行為の変更につき同法第五十条第一項の認可を受けるまでの間)、同法第五十条第四項の規定は適用せず、旧医療法第五十六条の規定は、なおその効力を有する。

 

結果として、本コラムを執筆している20223月時点では、持分あり医療法人については残余財産を払込済みの出資額に応じて分配することが可能となっております。

なお、持分なし医療法人については残余財産の帰属は国や地方公共団体等となっており、経営者等への分配を行うことができません。

 

4. まとめ

上記のとおり、持分あり医療法人については経過措置という形で残余財産の分配が可能となっております。

また持分なし医療法人については、残余財産の分配ができない以上、M&A・事業承継の可能性をぎりぎりまで探ることが重要となります。

当事務所では、医療法人のM&A・事業承継、バックアッププランとしての解散・清算手続まで一貫して弁護士がサポートしておりますので、お気軽にご相談ください。