2021.05.12
一般的な事業会社と同様に、医療法人がM&Aの当事者となることは珍しくありません。
特に近年では、ご親族への事業承継が困難な場合に、M&Aにより第三者に事業承継させる病院・クリニックの経営者の方が増えてきておりますので、M&Aに関して最低限の基礎的な知識を持つことは重要と考えられます。
もっとも、医療法人のM&Aには事業会社と異なる点も多いため、留意が必要です。そこで本コラムでは、医療法人のM&Aに特有のポイントについて、紹介させていただきます。
そもそも医療法人のM&Aとはどのようなものなのでしょうか。
「M&A」という用語に法律上の定義はありませんが、医療法人のM&Aとして一般的な類型は以下のものになります。
① 医療法人の持分の譲渡・譲受
② 医療法人の合併・会社分割
③ 医療法人の事業譲渡
④ (持分なし医療法人の場合)役員の変更
上記①~④のうち、最も一般的なものは①の持分の譲渡・譲受になります。
②の合併・会社分割は医療法により認められたM&Aの手法ですが、実際に利用されることは多くありません。
また、③の事業譲渡は実務上利用可能な手法ですが、こちらも①ほど一般的な手法とは言えません。
④の役員の変更は医療法人に特有のもので、持分がない医療法人の場合には①の持分の譲渡・譲受が利用できないため、売主である現在の医療法人の役員の全員が退任し、買主が新たに役員を選任することで、医療法人の経営権を取得する手法になります。
④は特殊な手続ではあるものの、持分なし医療法人のM&Aにおいては一般的な手法と考えられます。
医療法人のM&Aには通常の事業会社のM&Aとは異なるポイントがありますが、ここでは特に重要なものを紹介させていただきます。
まず、M&Aを実行する上では、ほとんどの場合、当局の認可が必要になります。
合併・会社分割を行う上で都道府県知事の認可が必要となるのみでなく、定款変更についても都道府県知事の認可が必要となる結果、持分の譲渡・譲受によりM&Aを行う場合でも、買主側の情報を定款に反映する上で、都道府県知事の認可が必要となります。
通常の事業会社の場合、M&Aの実行に先立ち当局の認可等が必要になるとすれば、当事者が特殊な業種に属していない限り、公正取引委員会からの排除措置命令を行わない旨の通知(いわゆるクリアランス)くらいです。
その意味で、原則として当局の認可が必要となる医療法人のM&Aは、特殊と言えます。
また、医療法人のM&Aにおいては、医療法人の内部留保を有効活用する必要があります。
すなわち、医療法人は通常の事業会社と異なり社員への配当が禁止されているため、ある程度の年数が経過している医療法人では、内部留保がかなりの額になっているケースがあります。
そのため、M&Aの実行に伴い売主側の役員が退任する際に、役員退職慰労金の名目で内部留保を原資に金銭を受領することが多いのですが、そのことを知らずに、持分譲渡の対価として売主が当初の払込額(+α)に相当する金額を買主から受領するのみ、という場合も少なくありません。
もちろん、M&Aの対価は医療法人の業績等にもよりますので、当初の払込額(+α)に相当する金額が適正額となる場合もありますが、売主側が上記のような実務を知らずにM&Aを実行すると、後に紛争となるリスクがありますのでご注意ください。
本コラムでは、医療法人のM&Aに特有のポイントについて紹介させていただきました。
医療法人のM&Aは、その件数が少ないこともあり、実務に詳しいアドバイザーを見つけることが難しい場合もあります。
当事務所では、医療法人のM&Aを数多く手がけている弁護士が、税理士等と連携してM&Aの全体をサポートさせていただきますので、お気軽にご相談ください。
※本コラムの内容は、一般的な情報提供であり、具体的なアドバイスではありません。お問い合わせ等ございましたら、当事務所までご遠慮なくご連絡下さいますよう、お願いいたします。