近年、医療法人を対象としたM&Aの件数が増えております。一言に「医療法人」といっても、社団医療法人なのか財団医療法人なのか、社団医療法人の場合には定款に持分の定めがあるかどうか、といった具合に複数の形態が存在します。
そのため医療法人を対象としたM&Aにおいても複数のスキームがあり、具体的な状況に応じてスキームを使い分ける必要があります。
このように複数のスキームが存在するところ、定款に持分の定めがある社団医療法人を対象としたM&Aにおいては、当該医療法人の持分譲渡と社員・理事の変更を組み合わせたスキームが一般的となります。そこで本コラムでは、当該スキームを利用した場合の最終契約である、持分譲渡契約のポイントについて解説させていただきます。
1. 持分譲渡契約の構成
一般的な持分譲渡契約において規定される項目は以下のとおりです。
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① 持分の譲渡に関する事項(売主、買主、持分譲渡の実行日、譲渡対価など)
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② 医療法人の社員・役員(理事・監事)の変更に関する事項
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③ 理事等の退職金の支払に関する事項
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④ 売主・買主の義務の履行に関する前提条件
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⑤ 売主・買主の表明及び保証
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⑥ 売主・買主の義務(持分譲渡の実行前・実行後の義務)
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⑦ 当事者の補償義務
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⑧ 一般条項(秘密保持、裁判管轄など)
持分譲渡契約において規定される項目のうち、一般的な株式譲渡契約に含まれないものは上記の②となります。
これは、株式会社においては株主が取締役等の役員を選任・解任する権利があるところ、医療法人においては社員総会が理事・監事の選任・解任を決定することとされており、社員総会の構成員である社員と持分の間に関連性がないことが理由です。
2. 持分譲渡の対価と理事等への退職金との組合せ
医療法人においては剰余金の配当が禁止されているため(医療法第54条)、医療法人において生じた利益は医療法人に留保されることになります。
もっとも、理事・監事に退職金を支払うことは可能ですので、M&Aの実行(医療法人の持分の譲渡)に伴い理事・監事が退任する場合には、退職金を支払うことが一般的です。
但し、持分の譲渡対価を受領したことに対する税金と、退職金の受領に対する税金では税率が異なります。退職金の金額によっては、退職金の受領に対する税率の方が高くなる場合がありますが、一定の範囲内では退職金の支払について、医療法人側で損金に算入することができますので、事前にシミュレーションを行い、持分譲渡の対価と理事等への退職金をどのように組み合わせることが望ましいかの検討を行うことをお勧めいたします。
3. 医療法人が所有又は使用している不動産の取扱い
医療法人は、理事長が個人で開業した後、一定年数を経て法人成りしているケースが少なくありません。この場合、理事長が個人で使用している不動産(自宅など)を医療法人が所有していたり、反対に医療法人が診療所として使用している土地・建物を理事長が個人で所有していることがあります。
もちろん、その状況を維持しつつ、医療法人と理事長との間で賃貸借契約を締結することでも対応可能ですが、場合によっては医療法人と理事長との間で不動産の売買契約を締結する、あるいは理事長が個人で使用している不動産であれば、退職金を現物支給する形で理事長に所有権を移す、といったアレンジも考えられます。
このようなアレンジを行う場合には、持分譲渡契約において、当事者の義務としてその旨を明記することになります。
4. まとめ
本コラムでは、持分譲渡契約のポイントについて解説させていただきました。
医療法人M&Aは株式会社のM&Aとは異なる点が多く、そのため最終契約の内容も株式譲渡契約とは異なるものとなります。
当事務所では多くの医療法人M&Aをサポートした経験を有する弁護士が、持分譲渡契約の作成、レビューなどを行っております。
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※本コラムの内容は、一般的な情報提供であり、具体的なアドバイスではありません。お問い合わせ等ございましたら、当事務所までご遠慮なくご連絡下さいますよう、お願いいたします。