院長の高齢化、後継者の不在や人手不足など、様々な理由で毎年多くの病院・診療所が閉院しています。地域医療の存続の観点からは望ましくないものの、やむを得ない理由で閉院を余儀なくされる方は少なくありません。
やむを得ず病院・診療所を閉院する際、経営主体が医療法人と個人事業主のいずれか、また債務整理を目的とした閉院か否かにより、必要となる手続が異なりますが、実際に閉院するとなった際、どの手続を選択すればよいのか分からず、悩まれる方も多いのではないでしょうか。
そこで本コラムでは、債務整理を目的とした、医療法人、あるいは個人開業の病院・診療所(個人開業の病院・診療所を総称して、以下では単に「診療所」と記載します。)の破産手続について解説させていただきます。
1. 破産手続を選択するメリット
金融機関からの借入金の返済が困難である等、債務整理を目的とした閉院の場合には、破産手続を選択することになります。
医師・歯科医師の場合、破産手続を選択しても医師・歯科医師としての資格に影響がないため、いわゆる私的整理手続で長期的な弁済を行うよりも、早期に破産を選択することでメリットが得られるケースが少なくありません。
医療法人・診療所のいずれであっても破産手続を利用することで原則として債務を返済する必要がなくなりますが、非免責債権と呼ばれる一定の債権については破産手続によっても免除されないため、診療所の場合には注意が必要です。もっとも医療法人の場合には破産手続の完了後、法人自体が消滅するため、非免責債権であっても法人が弁済する必要はありません。
また、医療法人の場合には、医療法人の債務について院長個人が連帯保証人となっているケースがあり、その場合は院長個人が当該債務を履行する必要が生じますので、この点は破産手続を選択する上で予め確認しておく必要があります。
2. 破産手続の流れ
破産手続は通常、以下の流れで進行します。
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① 破産の申立ての準備
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② 破産手続の申立て(裁判所に対する申立て)
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③ 破産手続の開始決定・破産管財人の選任
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④ 破産管財人による資産・債務の調査
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⑤ 破産管財人による資産の換価、弁済、配当
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⑥ 破産手続の終結
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⑦ (医療法人の場合)法人の消滅
破産手続に要する具体的な期間としては、規模の大きくない医療法人・診療所の場合、①の破産の申立ての準備から②の破産手続の申立てまでに1~2か月、③~⑥は6か月~1年間くらいをイメージしていただければと思います。
3. 民事再生・個人再生との比較
債務整理を目的とする場合、民事再生・個人再生という再生手続を取ることも可能で、当事務所に相談に来られる中にも破産ではなく再生手続を希望される方もおられます。
もっとも上記のとおり、医師・歯科医師は破産手続を利用しても資格に影響がないことに加え、破産・再生のいずれであっても信用情報機関への登録(いわゆるブラックリスト)は避けられないことから、債務の弁済が無くなるという点において、通常は破産手続の方がメリットが大きいと考えられます。
但し、個人開業でご自宅を所有されている場合、再生手続であれば住宅ローンを支払いつつご自宅を残すことが可能ですが、破産手続を利用すると破産管財人がご自宅を売却することになりますので、この点も手続選択をする上で重要なポイントです。
4. まとめ
本コラムでは、医療法人・診療所の破産手続について解説させていただきました。
当事務所では、医療法人・診療所の破産手続・再生手続のいずれについても複数の弁護士にてサポートしております。
医療法人・診療所の経営に関し資金繰りなどでお悩みの場合には、お電話またはトップページ末尾のお問い合わせフォームからご連絡をお願いいたします。
※本コラムの内容は、一般的な情報提供であり、具体的なアドバイスではありません。お問い合わせ等ございましたら、当事務所までご遠慮なくご連絡下さいますよう、お願いいたします。