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M&A弁護士コラム「医療法人M&Aと買主による法務デュー・ディリジェンスの進め方」

株式会社などの通常のM&Aとは異なり、医療法人(特に規模が小さいもの)のM&Aにおいては、最終契約の締結に先立ち、専門家によるデュー・ディリジェンスが行われていないケースが多くみられます。

確かに買主が医師であれば、買収しようとしている医療法人・クリニックの事業内容などを理解することが可能であるため、コストをかけてデュー・ディリジェンスを行わないという選択肢もあり得るところです。

もっとも、買収しようとしている医療法人・クリニック正確な収益力の把握や、勤務医・看護師に対する未払い残業代の有無など、財務・法務の専門家による調査を行わなければ発見できず、M&Aの実行後に顕在化すると影響が大きなリスクも存在します。実際にも、当事務所が対応するM&Aトラブルの多くは、事前にデュー・ディリジェンスを行うことなく、M&A仲介会社などから「一般的な内容の契約」と言われた契約書に押印してしまい、M&Aの実行後に買主が初めて問題を認識したようなケースです。

現在、買主としてM&Aを検討されており、デュー・ディリジェンスの進め方などでお悩みの方も多いかと思われますので、本コラムでは医療法人M&Aにおける、買主による法務デュー・ディリジェンスの進め方について解説させていただきます。

 

1. デュー・ディリジェンスを行う目的

法務デュー・ディリジェンスの進め方について解説する前に、そもそもデュー・ディリジェンスを行う目的がどこにあるのか、この点を明らかにしておく必要があります。

デュー・ディリジェンスの目的の1つは、M&Aの実行を困難とするような大きなリスクがないかの確認です。一例として、重大な法令違反、医療法人が被告となっている訴訟、税務上問題となるような取引の存在などがあります。これらのリスクはM&Aの対価の調整、あるいは最終契約における規定では対処できないこともありますので、買主において、M&Aを実行するか、撤退するかの判断を行う必要が生じます。

もしデュー・ディリジェンスを行わず、これらのリスクを認識できずにM&Aを実行してしまうと、後でリスクが顕在化した場合には、買主がリスクを負うことになります。

 

また、デュー・ディリジェンスの目的には、M&Aから撤退するほど大きなリスクではないものの、何らかの手当が必要なリスクが検出された場合に、M&Aの対価の調整を行ったり、最終契約において売主に補償(損害賠償)させる旨の規定を設けたりすることも含まれます。

これを言い換えますと、買主がデュー・ディリジェンスを行い、リスクを把握していれば、それがM&Aの対価や最終契約の内容に関する交渉材料となりますので、交渉を優位に進めることが可能となります。

 

上記のとおりデュー・ディリジェンスを行うことにより、買主は、買収しようとしている医療法人に内在するリスクを把握するのみでなく、M&Aの対価・最終契約の内容に関する交渉を優位に進められるというメリットが得られます。

デュー・ディリジェンスのコストをどこまでかけるかはM&Aの規模にもよりますが、どのような案件でも最低限のデュー・ディリジェンスは行う方が望ましいと考えます。

 

2. 法務デュー・ディリジェンスにおける確認のポイント

次に、医療法人M&Aにおける法務デュー・ディリジェンスで確認すべきポイントを解説させていただきます。

法務デュー・ディリジェンスにおいて確認すべき事項としては、①医療法人の組織・運営、②社員・持分、③契約、④資産、⑤負債、⑥人事・労務、⑦許認可・法令遵守、⑧訴訟・紛争という項目に分けて確認することが一般的です。

例えば、①の医療法人の組織・運営では、社員総会の開催の有無やMS法人との取引などを確認し、③の契約では医療機器のリース契約や診療所の賃貸借契約の内容を確認します。

なお、多くの場合、デュー・ディリジェンスの開始のタイミングで初期的な資料の提出を売主に依頼し、その資料を踏まえて質問や追加の資料の提出を依頼することになります。

 

3. 法務デュー・ディリジェンスにおいて検出されたリスクと最終契約への反映

最後に、法務デュー・ディリジェンスにおいて検出される典型的なリスクと、当該リスクが検出された場合、最終契約においてどのように規定するのかを解説させていただきます。

まず、勤務医・看護師に対する未払い残業代のリスクは、かなり高い確率で存在するものです。

未払い残業代に関するリスクが検出された場合、最終契約では、「M&Aの実行後に勤務医・看護師から未払い残業代の支払を請求され、医療法人が支払った場合、その全額を売主が買主に補償(損害賠償)する」旨の規定を設けることが多くみられます。

 

また、患者とのトラブルも法務デュー・ディリジェンスにおいて検出される典型的なリスクの1つです。

最終契約における規定は、患者とのトラブルの内容に応じて検討する必要がありますが、例えば患者から慰謝料などの支払請求を受けている場合には、「M&Aの実行後に、医療法人が患者に対して慰謝料を支払った場合、売主が買主に補償(損害賠償)する」旨の規定を設けることが考えられます。

 

上記のリスク以外にも、MS法人との取引における税務リスク、ハラスメントに関するリスクなど、検出されるリスクは案件ごとに異なりますので、デュー・ディリジェンスを行い、リスクを把握することが、後のトラブルを防ぐ上では極めて重要となります。

 

4. まとめ

本コラムでは、医療法人M&Aにおける、買主による法務デュー・ディリジェンスの進め方について、ポイントを解説させていただきました。

医療法人のM&Aは、M&Aの中でも特殊な部分があるため、デュー・ディリジェンスに対応できる会計士・税理士などの専門家が見つからないこともあろうかと思います。

当事務所では、医療法人のM&Aを多くサポートしている弁護士が、同じくM&Aに精通した税理士等の専門家と連携し、医療法人M&Aのプロセス全体をサポートしております。

医療法人の事業承継・M&Aに関する初回相談は無料で承っておりますので、お電話またはトップページ末尾のお問い合わせフォームからぜひご連絡ください。

 

※本コラムの内容は、一般的な情報提供であり、具体的なアドバイスではありません。お問い合わせ等ございましたら、当事務所までご遠慮なくご連絡下さいますよう、お願いいたします。