持分払戻請求がなされると、(元)社員あるいは当該社員の相続人に対して金銭を支払う必要があり、場合によっては医療法人の経営に大きな影響が生じるケースもありますので、持分払戻請求がなされるリスクを回避するために、持分の定めのない医療法人を選択する経営者もおられます。
それでは、実際に持分払戻請求がなされてしまった場合には、医療法人の経営者としてはどのような対応を取るべきなのでしょうか。
なお、以下では持分の定めのある医療法人の定款において、社員資格を喪失した社員は、その出資額に応じて払戻しを請求することができる旨の規定が存在することを前提とします。
1. 持分払戻請求の金額
持分払戻請求がなされた場合、医療法人は請求権者に対していくら支払うことになるのでしょうか。
この点については、ある社員が社員資格を喪失した時点における医療法人の財産評価額に、その時点における当該資格喪失者の出資割合を乗じて算定する、という考え方が一般的ではありますが、必ずしも確定した算定方法ではありません。
もっとも実務上は上記の考え方を前提に処理されることが多いため、上記の考え方をまずはご理解ください。
上記の考え方に基づきますと、例えばある医療法人の社員が3名(出資割合はそれぞれ1/3ずつ)で、うち1名が退社して持分払戻請求を行ったというケースで、当該請求時点における、その医療法人の財産評価額が1億5000万円の場合には、当該医療法人は1億5000万円の1/3である5000万円を、当該(元)社員に支払うことになります。
そして、医療法人の経営者の皆様にご留意いただきたいのは、「医療法人の財産評価額」(上記の例だと1億5000万円)というのは、医療法人が実際に保有している資産の額とは必ずしも一致しないということです。
財産評価は、大まかにいえばその時点の資産の時価から負債の時価を控除した額ですので、不動産の含み益などで資産の帳簿額が大きくなると、それに応じて持分払戻請求権者に支払う金額も増えてしまいます。保有資産に含み益が出ても、その金額で換金できなければ意味がありませんし、また医療法人が保有している資産は事業のために利用しているものがほとんどですので、換金することは事実上困難です。
その結果、医療法人の財務状況の実態に沿わない金額の支払義務を負うことになり、医療法人の経営に大きな支障が生じてしまうのです。
2. 社員に相続が発生した場合
社員が退社した場合のみでなく、死亡により相続が発生した場合にも、持分払戻請求がなされることがあります。
医療法人の持分を有する社員が死亡すると、当該社員の死亡時点で、その持分が具体的な金銭請求権である持分払戻請求権に変換され、これを相続人が行使する、というのが一般的な理解です。
したがって、相続の場合の持分払戻請求の金額は、持分を有する社員の死亡時における医療法人の財産評価額に、その時点における当該社員の出資割合を乗じて算定することになります。
相続の場合、医療法人の経営に関与していない相続人から持分払戻請求がなされることが通常ですので、医療法人の経営者との間で紛争となることが少なくありません。場合によっては訴訟となることもあり、持分の定めのある医療法人の経営においては、大きなリスクファクターとなっています。
3. 持分払戻請求がなされた場合の対応
以上の前提に基づき、実際に持分払戻請求がなされてしまった場合には、医療法人の経営者としてはどのような対応を取るべきなのでしょうか。
医療法人がまず取るべき対応は、持分払戻請求の金額について精査することです。顧問税理士などと連携し、医療法人の財産評価額を正確に算定して、最大限の金額を把握する作業が必要となります。
ここで重要となるのは、医療法人が保有する資産・負債の項目と、それぞれの評価額(時価)の処理です。帳簿に記載されている項目のみについて、漫然と時価を出していたのでは、訴訟あるいは交渉を有利に進めることは困難です。
帳簿に記載されていない簿外債務の有無や、時価評価を行う上でどのような手法を用いるかについては、税理士・公認会計士などの専門家とも連携して、持分払戻請求権者と交渉を行う必要があります。
もし持分払戻請求権者が弁護士を代理人にしている場合には、医療法人側でも弁護士に事件処理を委任することをお勧めします。特に訴訟が提起された場合には、速やかに弁護士にご相談ください。
4. まとめ
本コラムでは、持分払戻請求がなされた場合のポイントを解説させていただきました。
当事務所では、医療法人の代理人として持分払戻請求への対応を行っている弁護士が、医療法人の経営者の皆様をサポートいたします。
また、税理士・公認会計士とも連携して持分払戻請求の金額を可能な限り下げるための交渉を行っておりますので、持分払戻請求権が行使されてお困りの場合には、一度当事務所までご相談ください。
初回相談は無料で承っておりますので、お気軽にお電話にてお問い合わせください。
※本コラムの内容は、一般的な情報提供であり、具体的なアドバイスではありません。お問い合わせ等ございましたら、当事務所までご遠慮なくご連絡下さいますよう、お願いいたします。