経営されている病院・クリニックを何らかの理由で廃業する際には、経営主体である医療法人の解散・清算を検討されるケースが一般的です。
特に医療法人に内部留保がある場合には、清算手続の最後に、持分を有する社員に対して残余財産を分配できる可能性もあります。もっとも、医療法人の解散・清算は手続が複雑であり、時間もかかります。
そのため、以下では医療法人の解散・清算手続の流れ、また必要な期間の目安について解説させていただきます。
1. 医療法人の解散について
医療法人の解散・清算手続においては、「解散」を行った後に「清算手続」に移行することになります。「解散」と「清算」は日本語の意味としては類似していますが、法的には異なる概念ですので、分けて検討する必要があります。そのため、まずは「解散」について解説させていただきます。
医療法人の解散とは、医療法人の法人格の消滅の原因となる事由のことです。具体的には、病院・クリニックにおける医療サービスの提供を停止し、清算手続を開始することの決定、と考えることもできます。
医療法人の解散事由については医療法に定めがあり、社団医療法人・財団医療法人のそれぞれについて、以下の解散事由が定められています。
・社団医療法人の場合(医療法第55条第1項)
① 定款で定めた解散の事由の発生
② 目的たる業務の成功の不能
③ 社員総会の決議
④ 他の医療法人との合併(合併により当該医療法人が消滅する場合に限る。)
⑤ 社員の欠亡
⑥ 破産手続開始の決定
⑦ 医療法第66条の規定による都道府県知事の設立認可の取消し
・財団医療法人の場合(医療法第55条第3項)
① 寄附行為をもって定めた解散の事由の発生
② 目的たる業務の成功の不能
③ 他の医療法人との合併(合併により当該医療法人が消滅する場合に限る。)
④ 破産手続開始の決定
⑤ 医療法第66条の規定による都道府県知事の設立認可の取消し
上記の解散事由のうち、最も一般的なのは社団医療法人における社員総会の決議です。また、残余財産の分配を行うことができるのは社団医療法人に限られますので、以下では社団医療法人に限定して、医療法人の解散・清算手続の解説を進めさせていただきます。
2. 解散と都道府県知事の認可
上記のとおり、解散すると清算手続に進むことになるものの、社団医療法人が社員総会の決議により解散する場合、解散について都道府県知事の認可を得る必要があります(医療法第55条第6項)。この点が、株式会社の解散・清算手続との大きな違いです。
都道府県知事による認可については、各都道府県に設置されている医療審議会の審査を経る必要があります。
医療審議会の日程は都道府県より異なりますが、年に2回程度しか開催されないこともありますので、事前に審議会の開催スケジュールを担当者に確認した上でスケジュールを組むことをお勧めいたします。審議会の開催のタイミングによっては解散の認可までに半年以上かかることもありますので、ご注意ください。
3. 清算手続と残余財産の分配
都道府県知事が解散の認可を行うと、医療法人は清算手続に進むことになります。清算手続においては、理事長ではなく清算人が医療法人の清算事務、すなわち資産の換価・負債の整理を行います。
清算事務の目的は、医療法人の貸借対照表を現預金のみのシンプルな形にし、残余財産の分配を行う点にあります。この目的自体は株式会社の場合と同様ですが、医療法人の清算事務において特に注意しなければならないのが、医療機器や薬品の在庫の処理、未受領の診療報酬の回収になります。すなわち、医療機器や薬品の在庫の処理については薬機法の規制に沿って行う必要があり、また診療報酬の回収が多額に上ると、場合によっては訴訟の提起も検討しなければなりません。
清算人はこれらの点に留意しつつ、清算事務を滞りなく進める必要がありますので、通常は清算事務のサポートを弁護士などに依頼することが多いと思われます。
そして、清算事務を完了した段階で現預金が残るようであれば、残余財産の分配を行い、清算を結了することになります。
4. まとめ
本コラムでは、医療法人の解散・清算手続について解説させていただきました。
医療法人の解散・清算手続は、医師の方に経験がない場合が通常ですので、スムーズに進める上では弁護士等のサポートが重要となります。
当事務所では全国の病院・クリニックの解散・清算手続をサポートさせていただいておりますので、お悩みの際はお気軽にお問い合わせください。
※本コラムの内容は、一般的な情報提供であり、具体的なアドバイスではありません。お問い合わせ等ございましたら、当事務所までご遠慮なくご連絡下さいますよう、お願いいたします。